二次元畑でつかまえて

アニメやゲームの感想をのんびりまったり。ボーイズラブの話もしたりするのでご注意を。

ハイスピードを彩るキャラクター達

 ハイスピード二回目を観てきました!
 一回目とはまた違った感じで全体像を見ることができたので、それぞれのキャラクターについて自分なりにまとめてみることにしました。備忘録のような記事ですがどうぞお付き合いくださいませ~。

 

変わらない、変われない天才肌――七瀬遙

 
 遙は全体を通してマイペースで、「面倒くさい」「興味ない」を口癖のように言っているわりにそんな遙に惹かれて自然と周りに人が集まってくる。そんなキャラクターとして描かれています。が、一見最も自然体で悩みを抱えていないように見える遙ですが、彼こそが「周囲の変化についていくことができない」「特に変わりつつある真琴に焦りと寂しさを感じながらも自身は変わることができない」という天性の才能を持つがゆえの苦しみに悩まされていたのではないでしょうか。そういった遙の感じている息苦しさや焦燥感などがひとつひとつ、作中でわずかな表情の曇りだったり眉の顰め方だったりで丁寧に描かれていて、それはもう見ているこちらがつらいほどです。マイペースと言われる人は往々にして「元々ペースを周りに合わせることができない」人だったりしますが、遙はそれを個性にまで昇華しているキャラクターなのだと思います。ですがだからこそ、郁弥に対して「お前は俺じゃない。これからは、俺達の後ろじゃなく横に並べ」、真琴に対して「どうして無理に変わろうとするんだよ。真琴は真琴だろ」と、それぞれ新しい遙ならではの視点から二人を救う言葉をかけることができたのではないでしょうか。
 遙はそして、今まで話すことも深く考えることも避けてきた凛について、「俺は凛がいなくて寂しかったのか」と気が付くことができます。それが最も大きな遙の成長だったのではないかと私は思いました。遙が中学で水泳部に入ることに消極的だったのも、ただ面倒くさいからではなく、自ら新しい環境に順応することができなかったからだと思います。オーストラリアに行ってしまった凛、変わり始めた真琴との関係。それら全てに動揺し、ポーカーフェイスの奥で自分でも気づかないような寂しさを抱えていた遙が、旭や郁弥、そして真琴と心を通じ合わせて自分の気持ちに気付いていくさまはとても感動的でした。なかなか心の変化が読み取れない難しい主人公ですが、その彼の想いを知った時、私達は新たな感動と、そして自分たちが経験してきた思春期のあの心苦しいようなほろ苦い感情を追体験することができるのだと思います。


自分の本当の気持ちについて悩む者――橘真琴
 
 
真琴は冒頭から遙の良い理解者として描かれていて、その様子はまさに以心伝心といった感じでした。ですが、新しい友達を作ってその輪に溶け込んでいる遙を見かけて寂しさを感じたり、「バスケ部に入るのはどうなんだ?」と言う何気ない遙の一言にひどく動揺したりします。それは今までずっと一緒で、「二人同じ」だったことが当たり前だったのに、それが変わっていってしまうことに気付いた真琴の焦りと、そういった環境の変化に必死に適応しようともがこうとした姿だったのだと思います。そしてそれにさらに揺さぶりをかけたのが、尚の「本当に水泳、好き?遙がいるからじゃなくて?」という言葉でした。自分は遥がいるから水泳をしているだけなのか。本当に水泳が好きなのか。真琴が一番悩んだのは、「自分のやっていることに自分の意志がちゃんとあるのか」ということだったと思います。今までのように遙がいるから、と自然に受け入れられる状況ではなくなってきている。自分と向き合わなければならなくなったということを痛感した真琴は悩みます。そして無茶な練習をして「自分は水泳が好きだからこうしているんだ」と言い聞かせたり、遙と一緒にいることを避けるようになったりします。そんな遙とのすれ違いは見ていて胸が苦しくなりましたが、私が大好きなシーンでもある遙が「真琴は真琴だろ」と必死の想いで告げた時、真琴は「俺は俺なんだ」と気が付くことができます。遙が好きな自分も、水泳が好きな自分も、どちらも否定しなくていい。どっちかだけを選ばなきゃいけないなんて、そんなことはない。自分の気持ちに正直になって、もう一度見つめ直せばいい。そんなふうに思ったのではないでしょうか。そして真琴が導き出した答えが、「遙の泳ぎが好きで水泳を始めたことは否定しない。けれど、自分は遥も水泳も、どっちも大好きなんだ」でした。このシーンは本当に感動的です。遙のことなら何だって受け入れてきた真琴が、自分の意志というものを確立して、新しい道を新しい気持ちで遙と歩み始める。小学生の時から一番の変貌を遂げたのは、もしかしたら真琴かもしれません。


自分の殻に閉じこもり他者を拒む者――桐嶋郁弥
 
 
郁弥は周囲、特に兄に反発する排他的なキャラクターとして登場します。中学に入った途端に「世界を広げろ、仲間を作れ」とだけ言って自分を突き放した兄・夏也に対して激しい怒りを見せながらも、時折見せる寂しげな表情が印象的です。自分には兄さえいればいい、兄がいてくれれば仲間なんていらない。郁弥はきっとずっとそう思ってきたのでしょう。ですがそれに気が付いた夏也はこのままではいけないと郁弥を突き放します。結果、郁弥はクラスメイトにもつんけんした態度をとり、水泳部のことを「部活なんてただのお遊びだ。僕みたいに真剣にスイミングクラブで水泳をしている者から見たら生温い」と小馬鹿にすることで、何とか自分の中の孤独感と折り合いをつけようとしていたのだと思います。ですが、母親が所用でしばらくいないけれど大丈夫だという遙に対して「ハルは一人でも平気なんだな」と言ったり、兄と互角に勝負をして手を握り合った遙を見て苦しそうな表情を見せたりします。そして遙のようになれば兄がもう一度振り向いてくれるのではないかと試行錯誤します。
 そんな彼の殻を破ったのが旭ではないでしょうか。自らも悩みを抱えながらも持前の元気と明るさ、真っ直ぐ人にぶつかっていくことを忘れない旭。二人は時折反発しながらも心の絆を深めていきます。郁弥が「もう水泳部なんてやめる」と言って学校を飛び出した時、真っ先に追いかけたのも旭でしたね。そして旭の勘違いではありましたが何のてらいもなく真っ直ぐに郁弥を心配する心が郁弥の鍵のかかった心に届いたのだと思います。真琴の夏也の言葉に対しての「それは一人でできるようになってほしいってことなんじゃないかな」と言った時の反応から見て、郁弥は本当は兄の真意をわかっていたのだと思います。でも素直になれなかったし、また自分の殻を破って世界に踏み出す勇気も持てなかった。それが旭たち仲間のあたたかい心によって背中を押されて、ついには夏也が望んだように、本当の仲間ができ、自分の世界を広げることができました。今までずっと斜に構えていた郁弥が子供のように泣き崩れるシーン。あれは今までの寂しさと、そしてやっと仲間ができたことへの安堵の大きさを物語っていたのだと思います。


圧倒的な才能に出会って自分を見失いもがく者――椎名旭
 
 旭はかなり最初の方から「フリーだけ泳げなくなる」という挫折にぶつかります。ですがそこで落ち込むことなく、自分からメンタルトレーニングの本を借りに行ったり、旭なりに努力を重ねますが、冒頭から見せていた暑苦しいほどの自信満々な様子は徐々にしぼんでいってしまいます。そして、「フリー以外も泳げなくなったらどうしよう」と怯えるようになります。が、旭はただ怯えるだけではありませんでした。自分の弱さに立ち向かい、克服しようと立ち向かっていく強さを備えていました。ですが、旭の悩みの根本的原因は自分一人のものではなかったのです。旭は遥の泳ぎを初めて見た時、圧倒的な才能の前に自信をなくします。そしてそのまま心がのみ込まれてしまい、泳ぐことができなくなったのでした。これはいくらやみくもに個人的な努力を重ねようが解消できない問題だと思います。図書館で出会った怜の「自分を見つめ直すことが大切なのではないですか」という言葉をほぼ聞いていなかった旭ですが、遙が低血糖で倒れたあと、自分の性格について「俺って、プライドが高いみたいなんだよな」と気が付くことができます。だからこそ、遙を見て激しく自信を喪失してしまったし、またそんな自分を受け入れることもできなかった。ですが遙も同じ人間じゃないか、と当たり前のことに気付けたおかげで、旭は自分を取り戻します。そして再び泳げるようになるのです。
 旭はとても楽観的な明るいキャラクターとして描かれていますが、だからこそ悩んでいる姿、落ち込んでいく様子を見るのはつらかったです。しかし彼が自分の弱さを受け入れ、成長していく様子を見ることでそれがスッと胸の中で溶けていくのを感じ、とても嬉しく思いました。旭がいなければハイスピードはかなり重苦しい作品になってしまっていたのではないでしょうか。彼の明るさと強さは遙や真琴、そして郁弥を救ったと思います。とても重要で、そして誰もが好きになれるキャラクターです。


見守る瞳――桐嶋夏也、芹沢尚
 

 それぞれ悩み苦しむ一年生四人を見守り、導いていくのがこの二人です。夏也は特に弟である郁弥との関係で郁弥を大きく成長させますが、自分自身も「弟を突き放す」といった不器用なやり方でしか接することができないのを悩んでいました。尚はそんな夏也の悩みにも気が付いていて、彼について「本当に不器用だよね」と漏らしています。尚は見守るだけではなく、後輩、特に真琴に対して新しい疑問を投げかける存在でもありました。先輩として一見保護者のような気持ちで四人を見守っているのかと思いきや、彼らも彼らで悩みや問題を抱えているのが、ハイスピードの本当に素敵なところだと思います。完璧なキャラクターが誰として出てこない。誰しもみんな悩んでいる。苦しんで、もがいて、そして成長しようとしている。その姿が見る者の心を震わせ、時に涙を誘うのだと思います。記録会で遙たちが優勝した時の「早く選手に帰って来いよ」という夏也の台詞、そしてそれに微笑む尚の表情はとても素敵な余韻を残してくれました。


 余談ですが、OLDCODEXが歌っているハイスピードの主題歌のタイトルは「Aching Horns」、直訳すると「疼く角」なんですね。どういう意図でつけたのかは私の想像になってしまいますが、このタイトルは思春期に差し掛かって変容していく彼らを見事に表現しているのではないでしょうか。内側から変わろうとするエネルギー、そして外側から変われと言わんばかりに変化していく環境。彼ら全員が、まさに変わろうとして疼いている「角」なのだと思います。角とは彼ら自身の個性、性格の尖りのようなものではないでしょうか。あくまで想像なのですが、このタイトルを知った時とても感動してしまいました。

 さて長くなってしまいましたが、私のメインキャラクター達に関しての考察はここまでになります。あくまで個人的な感想なので、「ここは違うのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ハイスピードをご覧になった方がもう一度あの素敵な映画を思い出すきっかけになってくれれば幸いです。それではここまで読んでくださってありがとうございました!